Google Apps for BusinessとOffice 365。メールやカレンダー、情報共有などの企業に求められるグループウェアの各種ツールをクラウドで利用できるこれらのサービスが本格的な普及期を迎えようとしている。これらのサービスが、これまでどのように発展し、最新版で、どこまで進化したのかを探ってみよう。
TEXT:清水理史
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両雄の進化の歴史 |
コストの削減、柔軟性の高いリソースと契約形態、導入・管理の負担軽減といったメリットが特徴とされるさまざまなクラウド型グループウェアサービス。これらは、不透明な景気動向、災害や法令順守、セキュリティに強いITシステムへの要求などといった、時代の流れやユーザーのニーズに合致し、従来のワープロやメールソフトといったオンプレミスのアプリケーション、オンプレミスで動作させてきたグループウェアサーバーに取って代わる存在として、その存在感を急速に高めつつある。
それと同時に、ITを活用した働き方は「個人の生産性向上からコラボレーションの提供へ」と進化が進んでいる。この間には、サービス提供事業者間の競争があり、その結果、機能やサービスの拡充が進み、「コラボレーション」という新しい価値をユーザーが手軽に享受できるようになったと言えるだろう。
では、具体的に、どのような進化をたどることで、クラウド型のグループウェアツールは、現在のコラボレーションのツールへと進化してきたのだろうか?
クラウド版のグループウェアの両雄とも言えるグーグルの「Google Apps」とマイクロソフトの「Office 365」の歴史を振り返ってみると、それぞれ特徴的な進化を遂げてきたことがわかる(年表参照)。
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グーグルおよびマイクロソフトのクラウド関連サービス・機能の歴史
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サービスとしての登場時期は、Google Appsが先行しているイメージがあるかもしれないが、「Office 365」という名称のサービスが登場するまでの経緯を追っていくと、実際にはさほど大きな差はない。
Google Appsは、2006年に開始された「Gmail For Your Domain(ベータ)」と呼ばれる独自ドメインによるGmailのサービスが前身となるが、ほぼ同時期にマイクロソフトも企業向けにExchangeやSharePointのホスティングサービスを開始している。また、中小企業向けのサービスとして、独自ドメインによるメールの運用やWebサイトのホスティングが可能な「Office Live」のベータサービスも開始している。
マイクロソフトのメールシステムは、エンタープライズ向けのオンプレミス製品となるExchange Server 4.0(1996年)がその起源となるが、その自社によるホスティングサービス自体は2005年頃から開始されていたことになる。ちなみに、もう一方のOffice Liveで採用されていたのは当時のWindows Live Mail (現在のWindows Live Hotmail)であり、大企業向けと中小企業向けでメールソリューションを使い分けていたことになる。
つまり、Google Apps、Office 365のどちらもサービス開始時期にさほど大きな差はないが、その起源はGoogle Appsがコンシューマー向けメールサービス、Office 365がエンタープライズ向けのホスティングサービスと異なることになる。
ちなみに、クラウドで遅れを取ったと言われることが多いマイクロソフトだが、実際には、2000年に「.NET」としてネットワークの連携を次世代戦略として発表し、ホスティングサービスやオンラインサービスに古くから取り組みをするなどの展開に取り組んでおり、現在の戦略、サービスにつながっている。
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競争相手があってこその発展と進化 |
圧倒的な容量で登場したGmailやGoogle Docs & Spreadsheetsが市場に与えたインパクトは確かに鮮烈であったが、競争相手としてマイクロソフトのサービスが常に存在していたことが、発展につながったことは留意しておくべきだろう。
Gmail For Your Domainは、2006年の登場後、カレンダー、Talk、PageCreatorの機能を追加し、現在と同じ「Google Apps」という名称に進化した。また、同時期に表計算とワープロ(買収したUpstartleのWritelyがベース)の機能も「Google Docs & Spreadsheets」として開始し、2007年にプレゼンテーション機能、買収したPostiniのメールアーカイブ機能を企業向けのサービスに追加するなどして進化していくことになる。 |
グーグルのビジネス向けクラウドサービスの機能の変遷

サービスのスタートはGmail。独自ドメイン利用を皮切りに、グループウェア的機能が追加・拡張され、現在のGoogle Apps for Businessに至る。
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一方、マイクロソフトは、前述したホスティングサービスを継続すると共に、中小企業向けのOffice Liveを進化させ、2008年3月に「Office Live Small Business」の提供を開始。また別途、2009年4月には大企業にも対応するサービス「Microsoft Online Services」として、Exchange Online、SharePoint Onlineなどを含むMicrosoft Business Productivity Online Suiteを開始。その後、各機能の強化を進め、2011年6月に現在の「Office 365」へと至っている。 |
マイクロソフトのビジネス向けクラウドサービスの機能の変遷

マイクロソフトのサービスの変遷は、オンプレミスサーバー抜きでは語れない。クラウドサービスとオンプレミスサーバーが進化の両輪となってきた。
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注目されるのは、やはり、その進化の過程だろう。確かに、マイクロソフトは、グーグルに比べて、ワープロや表計算などのWebアプリの投入が遅かったが(2010年6月発売のOffice 2010で同時にOffice Web Appsの提供を開始)、その過程はデスクトップ版のOffice、SharePoint ServerやExchange Serverなどのオンプレミスのサーバー製品の進化とリンクしており、オンラインサービスとオンプレミスのサービスが共に進化するという形態が守られている。マイクロソフトとしては、ユーザーが実務環境に求める快適な操作性やリッチな表現を満たすためにデスクトップ版の開発を先行させ、オンプレミスと同等のクオリティがWebで表現できるタイミングを図っていたと考えられる。
なお、現在はサーバー製品を主軸に、逆にクラウドの開発が先行し、その技術がオンプレミス製品にフィードバックされるようになってきている。このあたりの柔軟さはマイクロソフトならではの特長だろう。 |
進化の過程で違いが生まれた両者 |
クラウドサービスとして機能やサービスが出揃った結果、近い機能やサービスも見受けられる両者だが、このような進化の過程の違いは、Google AppsとOffice 365の特徴的な違いを生み出している。 |
マイクロソフトのビジネス向けクラウドサービスの
ポジショニングマップ

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たとえば、Office 365はオンプレミス製品との連携ができる点が大きな特徴となっている。Office 365では、オンライン版のWordやExcelに加え、デスクトップ版のアプリケーションが提供される。これによりユーザーはどちらのツールを使ってデータを参照・編集することができるうえ、オンラインとオフラインのアプリ間での共同作業も可能となっている。また、オンプレミスに設置されている既存のWindows Server(Active Directory)やExchange Serverとの連携も可能となっている。
一方、Google Appsは、基本的にすべてクラウド上で、そしてブラウザ内で完結させることが基本的なコンセプトとなっている。ユーザーの環境をなるべくシンプルにすることで、プラットフォームを問わず共同作業ができる環境を目指しているわけだ。
これらの点が、オンプレミスのエンタープライズ向け製品から進化したOffice 365とコンシューマー向け製品から純粋なクラウドサービスとして進化してきたGoogle Appsとの決定的な違いとなっている。詳細な機能の比較については本書で詳しく解説していくが、言わば、「オンプレミスとの融合を図るOffice 365」と「オンプレミスの代替えを狙うGoogle Apps」といったところだ。
このように、Google AppsとOffice 365では、同じクラウド版のオフィスサービスでも、その生い立ちや進化の過程に大きな違いがあることがわかる。この違いは、製品そのもののコンセプトやビジョンに深く関わるため、実際に利用した際のユーザー体験や運用管理の手間、コストなどに影響してくると考えられる。この点を考慮することこそが、どちらのサービスを選ぶかを選定する際の重要な基準となりそうだ。 |
グーグルのビジネス向けクラウドサービスの
ポジショニングマップ

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ポイント |
「オンプレミス代替」と「オンプレミス融合」。
どちらが自社のビジネスに役立つかを見極めることが重要!! |
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