<株式会社クロスメディア・パブリッシング 小早川社長>

すぐに使える実用ビジネス書として紙書籍・電子書籍の両方で大人気の『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』や、タイトルやプロモーション手法でメディアでも話題になった『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』など、さまざまな切り口のビジネス書でヒット作を連発しているのが、クロスメディア・パブリッシングだ。インプレスコミュニケーションズと提携してさらなる展開を続ける同社の代表取締役社長の小早川氏に、その意気込みとヒットの秘訣を聞く。

小早川 幸一郎(こばやかわ・こういちろう)
1975年 千葉県生まれ。出版社でコンピュータ書、ビジネス書の編集担当を経て、2005年に株式会社クロスメディア・パブリッシングを設立。
http://www.cm-publishing.co.jp/

━━ビジネス書を手がけられていますが、ビジネス書の魅力はどこにあるのでしょうか?
ビジネス書がいちばん好きで自分でもよく読みますが、ビジネス書の魅力はメリットやゴールが明確な点にあります。また、マーケットが広く働いている大人が読者層なのでイメージしやすく、事業としてコントロールがしやすいというのもあります。

━━御社の書籍はどのような方に向けてつくられていますか?
書店の方に「働いている人のほとんどはサラリーマンで、ビジネスマンはその中のほんの一部。そのビジネスマンしかビジネス書は読まない」と言われたことがあります。仕事を自分でつくって能動的に動ける人がビジネスマン。言われたことを受動的にこなしていくのがサラリーマン。そして世の中はサラリーマンが多いということです。それを聞いて"ビジネスマン以外の働く人にも読んでもらえるような本をつくりたい"と思って企画するようになってから10万部とか20万部とか売れる本がつくれるようになったんです。

━━読者のニーズはどのように捉えているのでしょう?
若いスタッフには「自分の読みたい本をつくれ」と言っています。自分と同じような人間は世の中にごまんといるのだから、本当に自分がお金を出して読みたいと思う本をつくれば、5万部くらい売れるのではないかと思うんですよね。実際、下手にリサーチするより自分の心の声を信じてつくるほうが売れる可能性は高いと思います。

━━それは編集者の"感"みたいなものですか?
"感"というか、素直な気持ちですね。たとえば会社をつくったころの話です。独立・起業したいと思い、いろいろな本を読み、調べて、知識を仕入れようとするのですが、よいと思う本がありません。"だったら自分でつくっちゃえ"と考えて本をつくると、同じことを考えている人が自分以外にもいて、本を買ってくれるんです。会社をつくったあとも、資金繰りが大変だなと思ったら財務・会計がテーマの本をつくるし、もっと売上を増やしたいなと思ったら、マーケティングの本をつくったりしています。専門家の人に本を執筆してもらいながら、一読者として自分の会社のための知識も一緒に仕入れています。ビジネス書の出版社冥利に尽きます。

━━読者の目線で見た場合に、ビジネス書の現状はどう思いますか?
昔ながらのビジネス書のつくりではないものが増えていますね。ストーリーがあったり、エンターテインメント性があったり、デザインがきれいなものが売れています。自分が書籍の編集を始めた95年くらいはビジネスの情報を得る手段が本しかありませんでしたが、いまはネットで調べられます。ビジネス書は専門的な知識を得るという役割が減り、より刺激的なもの、世の中に知られていない情報を盛り込んだもの、著者の個性を出したものが売れます。そこは編集の切り口としても気にしているところです。

━━本をつくるときに、御社の編集者に徹底させていることはありますか?
価値のある、売れる本をつくるというのは大前提ですね。あとはオリジナリティのないものはつくらず、クロスメディア・パブリッシングらしさを出すようにしています。当社は発掘型の出版社で、著者の半分以上は初の著作という人であることもそれゆえです。売れている著者を使って売れているテーマの本をつくるのはやめようって言ってますね。

━━御社の本はどれもタイトルが特徴的ですね?
当たり前のよくあるタイトルはつけない、と同時に中身のわかるタイトルにしています。タイトルの案は数を多く出して数を絞っていき、最終的には私が決めます。タイトルの付け方は時代のトレンドで変わりますし、私の趣味嗜好も出てしまいます。ただ、どの候補を推したいかという担当編集者の熱い気持ちも、見た瞬間にわかるので、総合的に判断します。タイトルについては、合理的、論理的に考えても必ずしも売上に結びつくわけではないので、ある程度感覚的なところはあります。

━━ずばり、ヒットの秘訣は?
わからないですね(笑)。若いスタッフが出してきた企画を見て、「全然わかんない。これってどうなの? 誰が読むの?」と言うとかみついてくるんですよ。「なんでわかんないんですか」って。でも、それだけ言うということは何かあるのではないかと思い、任せてみたら売れることがよくあります。チャレンジさせる環境をつくることは、経営者として重要なことだと思います。

━━今後どのような出版社にしていきたいと思いますか?
出版の事業で培ったスキルやノウハウを使って、ビジネスコンテンツを電子出版やWebなど他のメディアにも広げていきたいと思います。実は、インプレスグループの経営理念と似ているな、言いたいことって同じだよなって思いました。

━━インプレスグループをどのように捉えていますか?
よい会社だなって思いますね。すごくバックアップしていただいていますし、インプレスグループのカルチャーがいいんですよ。グループ企業なのでいろいろな趣味嗜好の人がいるし、転職してきた人も多いので、よそ者に優しい。

━━電子出版にも積極的に取り組まれていますね?
電子書籍元年を迎えましたが、世間が騒いでいるほど市場は広がっていません。ただ、それでいいと思っています。一過性のブームではなく、習慣や文化として根付くような形での市場の広がり方になっていると思います。電子書籍は間違いなく広がっていきますので、やっておかないといけないですね。理想を言えば収益の柱のひとつにしたい。紙書籍と"同等"にしたいですね。売上ベースでの"同等"は難しいかもしれませんが、利益ベースでは柱になりそうな気がします。

━━自社で電子書店を始められました。
SHORT BUSINESS BOOKS」という自社運営の電子書店です。始めた理由は、章単位での書籍、いわゆる「マイクロコンテンツ」の販売を昔からやってみたかったことと、自社での顧客リスト、販売の導線をつくりたかったこと、さらにはマイクロコンテンツから1冊まるごとの紙書籍や電子書籍の購入誘導の実験をしたかったことなどがあります。

━━「ビジトレ」というWebサイトも始められましたよね?
ビジトレ」は"ビジネスパーソンのトレンド&トレーニング"の略で、一般の利用者の質問に別の利用者やビジトレ編集部のスタッフが回答するQ&Aサイトです。回答はクロスメディア・パブリッシングの既刊書籍の内容から出します。回答に共感した方がその書籍を購入できるようになっています。

━━小早川社長のいま一押しの書籍をご紹介ください。
一流役員が実践している仕事の哲学』です。仕事の中での習慣について、自分がそれができているかどうかをチェックできる本です。役員と部長と一般社員と、それぞれの立場の人ならどうしているのかという切り口で書かれているのが、わかりやすく、好評をいただいているようです。2013年5月現在75,000部売れており、当社での新しい試みとして、コンビニエンスストアでの販売も予定しています。

━━読者の方へメッセージをお願いします。
私や会社のスタッフが食べていけるのも、読者の皆さんが当社の本を買って読んでいただけているおかげです。今後も、みなさまにご愛顧いただけるような本をつくっていきたいです。

━━ありがとうございました。

取材日:2013年5月10日
取材・文・撮影=インプレスコミュニケーションズ・デジタル事業本部

小早川社長の一冊

以前の出版社にいるときに出した『営業マンは断ることを覚えなさい』です。それまではコンピュータ書をつくっていた自分がビジネス書をつくることになり、はじめてつくった書籍です。社内の猛反対を押し切って、売れなかったら給料もボーナスもいらないとまで言って、ようやく出せました。発売されたところベストセラーとなり、それ以降は何も言われなくなりました。飲みにいくと営業マンらしき人がくだを巻いてるのを見て“断れたら楽なのに断れないんだろうな、それが実現できたらいいんじゃないかな”と思い企画しました。当時の社内からは「そんなの無理だろう」と言われつつも、常識にとらわれずに物事を考えてつくって売れた本です。